「放っておいて」：母性本能

ニューヨーク・タイムズのベストセラー作家で人間関係の専門家であるR・H・シンは、「火を恐れる女性もいるが、ただ火になってしまう女性もいる」と書いたのは善意だったのかもしれない。トーマス・ベズーチャ監督の映画『レット・ヒム・ゴー』は、女性が自分の力で運命を形作るときの危険性を、あまりにも文字通りに警告している。女性は、すでに完全に自分自身であるなら、何者にもなる必要はありません。

ベズーチャの映画は、多くの人が誤解しているように、高貴な一族であるブラックレッジ家が邪悪な一家であるウィーボーイズと対峙し、敗北するという単純な救出と復讐の物語ではありません。実際、ラリー・ワトソンの同名小説を基にしたベズーチャのプロットと登場人物は奥深いものです。

ベズーチャの映画は、厳しく、しばしば無情な西部を描いた別のスリラーとは程遠く、母性本能の力で生き、それを異なる方法で行使する 3 人の女性についてのゆっくりとしたドラマです。ある者は下手で、ある者は賢明である。彼は、女性はもっと上手にそれを扱えるだろうかと尋ねます。妻として、母親として? 彼は母性本能を、創造し、育み、守る力であると同時に、容易に抑圧し、ねじ曲げ、消費する力であると考察しています。そして彼は、3 人の女性の間でバランスを保っている小さな少年、ジミーの運命を描くことでこれを実現しています。

ジミーの母ローナ（ケイリー・カーター）、ローナの亡き夫ジェームズの母マーガレット・ブラックレッジ（ダイアン・レイン）、ローナの二番目の夫ドニーの母ブランシュ・ウィーボーイ（レスリー・マンヴィル）という３人の女性はいずれも欠陥のある両極端を代表し、中間点を示唆している。それはそれほど極端ではなく、欠陥も少なくなります。

ローナはスペクトルの最も弱い立場にあり、受動的ですが、自分自身を認識しており、彼女なりの方法で勇気があります。一方の女家長の罪深い影（マーガレット）から離れることができて安心した彼女は、勇気を振り絞って虐待的なもう一人の家長（ブランシュ）から逃げ出す。救出者である義父のジョージ・ブラックレッジ（ケビン・コスナー）によって深い眠りから目覚めた彼女は、悪意か恐怖からか、彼に「出て行け」と簡単に言うことができたはずだ。彼女はそうではありません。そしてジョージは、自分の命を危険にさらすほど彼女の勇気と行動力を信頼しています。

勇気のあるマーガレットと臆病なブランシュは、たとえどちらもローナのような自覚がないとしても、ローナのような人になるよりはむしろ犠牲者になることを望んでいます。ローナは両方から学びます。行動のない認識は、認識のない行動と同じくらい破壊的になる可能性があります。ブランシュはジミーに対する女系社会の支配力を強めようと素早く行動し、マーガレットも同様に素早く彼女の支配力を強めようとするが、どちらも彼らの支配がいかに悲惨であるかを実感していなかった。

ベズーチャは自分の物語を語るために 3 人の異なる女性を起用していますが、彼らは連続体、つまり同じ女性がたどる旅を表していると言えるでしょう。マーガレットが口紅を磨くために鏡に近づくと、鏡の端に男（ジョージ）の像が汚れるのと同じように、マーガレットの 3 つの像が見えます。1 つは実物、2 つは反射しています。ベズーチャの物語は男性と女性についてのものであり、彼の説教は女性についてのものです。

アメリカインディアンの若者ピーター（ブーブー・スチュワート）、ローナの新しい夫ドニー・ウィーボーイ（ウィル・ブリテン）、そしてジョージの３人はどうなるのでしょうか？

ピーターは最も弱い立場にあり、まだ勇気がありませんが、受動的であり、自己認識しています。

いじめの家庭教師を受けているドニーは、勇気も自意識も欠如しているが、その両方を抱えている。ジョージを暴行した後、ブランチの教育を受けたサディズムに立ち向かわない自分に腹を立てて飛び出した。確かに、彼は彼女が望む限り残酷になりますが、少なくとも最初は躊躇します。

ジョージは自覚的で勇敢ですが、現実主義に阻まれています。

ワイルドカードのジミーは男性ではなく少年です。単なる可能性です。ジミーの男性への歩みは、ローナとマーガレットという 2 人の女性によって最初に、そしておそらく最後に形づくられるでしょう。彼は自分自身の男に成長するでしょうか？それともピーター、ドニー、ジョージの色合いを持っていますか？

ワトソンの「彼女を手放す」ではなく「彼を手放す」は、男性も女性も運命を形作る自由（そして責任）を持っているが、女性は母親として、独自に少年を自分が望むような男性に形作ることができると主張しています。、将来の夫、将来の父親、さらには祖父として。彼らは良い方向への力となるだろうか？それとも、自分自身と娘たちを、不安で卑怯な男性たちと並んで自滅のサイクルに追い込むのでしょうか？

ジョージは本当に良いことに、邪悪な父親はたくさんいるということを思い出させてくれます。マーガレットが聖書を叩きまくっていた亡くなった父親のことを鼻高々に思い出すと、「彼が叩きまくっていたのは聖書だけではなかった」と明言する。それは2つのことを言います。まず、ジョージが親切で勇敢で敬意を持った行動をとったとしたら、おそらく彼の母親がそれに少なからず関与していたであろう。第二に、彼は虐待する父親を真似しないことを選択しました。ジョージは、自分が劣悪な生い立ちや境遇の犠牲者であると訴える男性、自分の無謀や怒り、暴れの言い訳を妻やウィスキーや邪悪な母親のせいにする男性たちへの反論である。

マーガレットは小さなジミーを自分の中に吸収してしまいそうなほど抱きしめます。彼女は彼の音、匂い、表情、肌の感触を崇拝します。しかし、彼女の「すぐに遊びに来てね」は、お願いというよりは命令に近い。

マーガレットの愛は温かいものですが、彼女の一方主義が根深いため、力を与えるというよりはむしろ奴隷にしてしまうのです。

彼女はジョージに、ジミーに向けて出発することを知らせます。彼女は「彼なしでは」戻ってこない。ジミーのいない将来であれば、ジョージの将来さえ問題ではありません。彼女はジョージが同行してくれることに安心しているが、それは望ましいことであり、必須ではない。彼女がジミーの不在について口をとがらせるとき、彼女は苦悩を共有するのではなく、ほとんどジョージを責めているようだ。ジョージがなぜドニーの虐待をすぐに明らかにしなかったのかと不思議に思うと、彼女はこう言うかのように眉をひそめます。「それがどんな違いを生むでしょうか?!」彼女は「報酬」として彼に親密さを操作的に押し付け、それを「報復」として撤回するため、彼女の軽蔑は不信感をにじませます。

ジョージは服従することで充実感と受け入れられ方を見出します。彼女がジミーへの探求をあきらめると、彼は永遠の子供を甘やかすかのように、それを再開します。しかし、マーガレットは彼の再三の警告を避けた。彼女の愛は時には人を救うが、時には窒息させたり、飢えさせたり、殺したりする。彼女に代わってウィーボーイズに向けた彼の救世主の攻撃は、ローナとジミーを焼き尽くしたかもしれない。

ジェームズの早すぎる死はマーガレットとジョージから別れを奪うが、ジョージは墓石の前にしばらく佇むことに慰めを見出している。マーガレットは幻の息子を抱きかかえ、車の中で孫に「思い出させる必要はない。何を失ったかはわかっている」と吐き捨てる。ジョージは、「マーガレット、人生はそれがすべてだということもある。失ったもののリストだ」と言う。ローナはドニーのファーストキスにひるむ。彼女もまだジェームズの死を悼んでいない。

マーガレットのバックミラーに二人の人物が遠くに消えていく。まず、ジミーはしぶしぶローナとドニーと一緒に彼を残します。最後に、ピーターは、彼女がそれほど嫌がらずに、彼を一人にしておくことにします。彼女は一つだけ手放します。彼女もピーターと抱き合いたい衝動にかられますが、彼女は心から「ありがとう。行ったほうがいいよ」と言いました。それは彼女が息子のジェームズに言えなかった別れの言葉です。

ベズチャのポイントは？年をとり、死ぬことが生きることの一部であるのと同じように、手放すことが愛することの一部として受け入れられるのであれば、手放すことは「失う」ことではありません。手放すことは、私たちが惜しみなく与えられたものに対する一種の寛大な恩返しです。もろさ（そして壊れやすさ）は、各段階を優雅に手放さないことから生まれます。それは忘恩を反映しています。たとえ豊かさの中でも、欠乏を追体験すること。豊かさは、もし存在したとしても、過去に囚われているように思えます。マーガレットが死者にささやくのは思い出についてです。

マーガレットは気にかけてる。彼女はまだ気づいていない、ましてや表現されていないニーズに応えます。ローナの家の何もない窓を見つけて、彼女は「カーテンを縫ってあげるよ」と申し出る。ジミーのために出発し、彼女は愛情を込めてケーキを焼きます。しかし、彼女は孫を守っているのでしょうか、それとも、年老いた夫や亡くなった息子では見つけられなかった完璧な男性をまだ探しているのでしょうか？完璧な人とは単に完全に柔軟な人なのでしょうか？彼女はこれまで数々の勝利を収めてきましたが、保護的であることと独占欲が強いこととの間の紙一重を発見しただけなのでしょうか？

ブランシュは嵐（病気、死、脱走）に立ち向かったことを誇りに思っており、「私はここに留まった！」と語った。マーガレットと同じように、彼女は自分自身を生存者、他の人は全員犠牲者だと考えています。彼女はマーガレットに、「あなたの息子さんは亡くなったのです。あなたが忘れるのは無理もありません。私たちは息子たちの育てが終わったわけではありません。正しい方法を教えてください。なぜ私が息子を家に連れて帰り、そこで息子を見守らなければならなかったのですか。」と言いました。ブランシュの息子に対する不信感は、マーガレットの夫に対する不信感を反映しています。ナルシシズムから来る軽蔑。

ブランシュはそれほど驚くべき認識の欠如で、マーガレットに小言を言います。「ローナがあなたと一緒に行きたくないのは不思議ではありません…大きな雄牛！あなたは誰にとって何が最善かを知っていると思っています。」そしてジョージを嘲笑し、「間違いなく、死ぬほどつついてるよ」と言いました。

小言の中で、安全な女性は違いをスパイし、不安定な女性は同一性をスパイします。ブランシュはマーガレットの中に自分自身のおとなしい姿を見るが、マーガレットはブランシュの中に自分自身の倒錯した風刺画を見るのにしばらく時間がかかる。

マーガレットは馬を「壊す」ことに生涯を費やしてきた人かもしれないが、どちらの女性も家族の人間の牡馬や牡馬（そして牝馬）を「壊す」ことに慣れていて、彼らの自由を制限し、彼らを自分よりも少し劣ったものにしている。ただ違うだけです。野蛮なブランシュは彼らの精神を打ち砕き、力ずくで、あるいはその脅しによって服従を引き出します。マーガレットは穏やかな性格で、乗馬が歓迎されるだけでなく、自然と馬に乗ることができるまで彼らを和らげます。どちらも、速歩はおろか、馬をギャロップさせるのにハーネスやホルターを必要としません。

ピーターもまた、「内部にいるインディアンを殺そうとした」警官たちによって「打ちのめされた」という事実により、マーガレットは静かに、密かに自分の破壊的な支配に立ち向かうことになる。モーテルの寂しい部屋で切断されたジョージを抱きかかえながら、彼女は「私があなたに何をしたの?!」と言いました。彼女は、自分が今したことだけでなく、彼女がずっとやってきたこと、つまり犠牲を払ってでも他人の意志を自分の意志に曲げることの恐ろしさを嘆いている。

ローナは、なぜマーガレットが自分にとって義母というより母親ではなかったのか不思議に思っています。マーガレットは「もっとあなたに…もっと接しておくべきだったのに」と嘆く。ダイナーの近くでの彼らの和解的な抱擁（手を差し伸べるのはローナだ）は、義理の娘を内部関係者ではなく侵入者として扱い、息子にも同じように教育する女性たち、弱い立場にある女性を軽蔑し、かつて自分たちもそうであったことを忘れている女性たちを告発する。傷つきやすい女性たち。

ビル・ウィーボーイが、もし「未亡人のドニーと結婚しなさい。あなたはそうするだろう」と尋ねられたら甥に与えただろう「アドバイス」について彼女をからかうとき、マーガレットは愕然とし、ブランシュが与える自己嫌悪を味わう。感謝できる女性になってください。」

ベズーチャは裏話を軽やかに語る：なぜローナは急いで再婚したのか？なぜブラックレッジ家は彼女をウィーボーイズと結婚させる前に適正評価を行わなかったのでしょうか? なぜウェブボーイズはこれほどひねくれているのでしょうか？結局のところ、私たちは奇妙な家族や認知症の家族を2週間ごとに見かけます。最後のシーンではブランシュの「なぜ!?」という叫びが印象的だった。修辞的なままで、答えは得られない。ベズーチャは、女性と男性のあり方、ありのままのあり方にもっと興味を持っています。彼はこう言っています。「失うことを恐れ続けていると、自分が執着しているものは最初から自分のものではなかったことを忘れてしまいます。」しがみつくのは思いやりではありません。あなたが執着しているものを本当に所有することは決してできません。あなたが本当に所有しているのは、手放す準備ができているものだけです。

ベズーチャの映画は、キプリングのような魅惑的ではないが、種のメスのほうがオスよりも危険であるという空想的すぎる理論を描いている。これは箴言 14 章 1 節に似ています。「賢い女は自分の家を建て、愚かな女は自分の手で家を取り壊す。」なぜなら、女性が男性（兄弟、夫、父親、息子、孫）に、愛とはコントロールすることであり、与えること以上のものを受け取ることであると教えているなら、家は建てられないからです。さらに悪いことに、与えることは最終的にはお返しではなく諦めることになります。

ルドルフ・ランバート・フェルナンデスは独立系の作家で、ポップカルチャーについて執筆しています。ハリウッド映画、映画アイコン、映画の中の女性、映画の中のフェミニズム、女性監督、ハリウッドの #MeToo に関する彼の著作には、...

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